一欠片の・・・
あれから幾つの日が経ったのだろうか。
僕はあてもなくずっとさまよい続けている。
いつからこうなったのか・・・思い出そうとしても思い出せない。
いくつもの夜を超えて日が昇るのを数えていたらいつの間にか僕はあてのない道をさまよっていたのだから。
記憶さえもあやふやになる、生きているのが不思議なくらいだ。
まさかあんなにも楽しかった幸せの日々から一転、
こんな地獄のような光景の中僕はたった一人生き残ってしまった。
もう生きていても仕方ないな。
横たわった僕はそう思うと走馬灯のように記憶が思い出されてきた。
ああ、少し思い出してきた。
あれはそうだ家族のみんなで山へハイキングに来ていたんだ。ハイキングなんて生易しいものではなく登山か。
そもそも登山なんてした事なんかないっつーの。
僕と親父と母さん、姉貴の4人で富士山登山に行こうと決めたのはいつ頃だっけな?
ゴールデンウイーク中の5月3日。
何もすることがなく一人部屋でゴロゴロしていた僕をおやじは無理やり叩き起してきて
『まだゴロゴロしてんのかー!』
『明日は富士山に登るから今日はその用意を買いに行くぞ!』
なんて言われて「めんどくせぇ」とか思っていても親父は頑固だから1度言い聞かすと何も聞かなくなるから一緒に買いに行ったっけ。
そもそも運動さえ真面目にやれてない僕が富士山に登るなんて無理だろ、、と思っているのにハイキング感覚で母さんと姉貴を巻きこむんだからやっぱりうちはこの親父を中心に回っているんだな。
どこまで車を飛ばして買いに行くんだろって思っていたら隣町のアウトドア専門店に来た。
普段からこんな店に入らない僕はなんか場違いのような感じもしつつ、それでも初めて見るものが沢山ある店内を浮き足だってまわっていたな。
ついつい本気でキャンプをしたくなるけど結局使わないか。
と思いテントやランタンを触っていたら店の奥の方から親父に呼ばれる声がした。
『山をなめてはいけないからな、しっかりとした靴を買おう。』
そーか、今日は靴を買いに来たのか。
と思って母さんや姉貴の分は?と思ったけどそういえば前に女性陣の靴は買っていたのであった。
実際にそこにある登山靴を履いた時に普段履いているスニーカーとの重さを感じた。
『!!!!!』
重てぇ、、こんなのはいて歩けるのかよ。
まして山登りなんて、、、
そんなことはお構い無しに試着した靴を
『おー似合っているな!』
と上機嫌な親父はそのまま
『サイズはどうだ?あっているか?』
と聞かれたのでうんと答えたら直ぐにその靴をレジに持って行ったな。
お会計をすぐさま済ましと車に戻り今度はスーパーによってバナナやチョコレートなどの栄養価の高いものを何点か、それと2リットルの水を買ってきた。
こりゃ本格的な登山になるのか、と明日が来なければいいのにななんて小声で呟いたら。
『ん?なんか言ったか?』
なんて言ってくるんだもんな。地獄耳かよ。
まあそんなこんなで富士山登山の準備が整ったってわけでその日は家族みんなでご飯を食べたんだっけな。
明日のための体力を作らなきゃということで肉を食べようと言い出したのも親父か。
大好物であるしゃぶしゃぶは僕はポン酢だけで食べるのに、もみじおろしを買い忘れていたもんだから
「あんだけスーパー行ったのにもみじおろしないんかよ!」
って突っ込んでしまったな。
久しぶりに家族全員でご飯囲んでたべたっけ、面白かったし楽しかったな。
そう、それが最後の晩餐になるなんて思わなかった。。。。
次の日はという重い登山靴に履き替え朝早くから車で富士山吉田口五合目について家族みんなでいざ登山!
登り始めはなんだこんなもんかなんて思っていたのもつかの間。
母さんや姉貴は6合目も着いていないのにもう肩で息をしている。
親父はそんなふたりの荷物を持とうと張り切っているから僕は1人で先に登っていった。
1人で8合目に来たあたりかな、途中でカバンを下ろそうと山小屋のベンチに腰をかけようとしたら物凄い音がしてきて
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!』
『ドガーン!!!!』
痛っ、、、
目が覚めた時は空が真っ黒で今が気を失ってからどのくらいたったのかも分からないくらい感覚を失ってた
ふと立ち上がるも足を怪我しててなかなか立ち上がれない。
必死の思いで立ちあがり周りを見渡すと、
景色が今までと違っていた。
まず僕が登っていた富士山の半分が無くなっているのである。。。。
一体ここはどこだと思い見渡して見ても遠くに富士山?(の残骸)が見えるだけで他には何も無くなっていた。
そう、文字通り木々や人が住むような街なども見当たらずただただ荒廃した大地があるだけで何も無い。
人もいない、動物もいない、植物も枯れ果てた世界になっているのである。
!!!!!!!!!!!
あまりの光景に僕は目を疑った。
そ、そんな、、、、
言葉にできないというのはこのことである。
『親父は?母さんや姉貴!!』
どこを探しても誰もいそうにない。
そっそうだとポケットをまさぐってみても僕のスマホはどこかへいってしまったようだ。
家族もいない、人間もいない。。。
地獄のような世界へ自分1人だけワープしてきたかのようだ。
落胆し膝から崩れ落ちた時に足元には自分のリュックだけが残っているのを見つけた。
中身をあさってみても昨日スーパーで買ったチョコレートと飲みかけの水しかない。
バナナは登山中に食べたので皮だけがビニール袋に入って異臭を発している。
さすがに登山用の靴だけあって靴だは壊れてなく歩けそうだ。
持ち物を確認してみよう。
- 飲みかけの水
- チョコレート
- ウインドブレーカー
- 財布
僕の持ち物はこれが全てだった。
世界の終わりのような風景に自ら生きることを否定する道もあっただろうが僕は立ち上がり歩いた。
それは目の前に見える富士山の残骸を背にして東京へ向かうためだ。
何が起きたのか分からないが僕と同じように生きている人間がいるかもしれない。
日本で1番栄えている東京へ行けば何か手がかりがあるかもしれない。
微かな期待を胸に水とチョコレートだけで歩いて行ける訳では無いとは分かっていても自らの足を止める訳には行かない。
どうしてもまた家族に会いたい!
その一心だった。
そして来る日も来る日も歩いた。
水とチョコレートを少しづつ消費しながら東京へ向かうため。
日に日に体力が無くなってきているのが分かる。
まともなご飯なんて食べてない。
またしゃぶしゃぶ食べてぇなあ、、今度はポン酢にもみじおろし入れなきゃ、、、、、
意識が段々と朦朧としてきた
この道が東京へ向かう道かどうかもわからなくなっている今
僕はどこへ向かうのかあてもなくさまよっていた
そして最後のチョコレートの欠片を口にして僕は歩けなくなった。
あれから幾つの日が経ったのだろうか。
僕はあてもなくずっとさまよい続けていた。
いつからこうなったのか・・・思い出そうとしても思い出せない。
いくつもの夜を超えて日が昇るのを数えていたらいつの間にか僕はあてのない道をさまよっていたのだから。
記憶さえもあやふやになる、生きているのが不思議なくらいだ。
まさかあんなにも楽しかった幸せの日々から一転、
こんな地獄のような光景の中僕はたった一人生き残ってしまった。
もう生きていても仕方ないな。
横たわった僕はそう思うとふと瞳を閉じた。
最後に家族に会いたかったな・・・・・・・・・
親父や母さんや姉貴どこいったんだろ・・・・・・・・
最後くらい素直でいられれば・・・・・・
今まで
本当に
ありがとう。
『まだゴロゴロしてんのかー!』
『明日は富士山に登るから今日はその用意を買いに行くぞ!』
その声に僕は目を覚ました。
ふと見渡すと自分の部屋で寝ていた。
スマホを見てみると5月3日だ。
机の上には一欠片のチョコレート。
こいつを食べたから戻ってこれたのか??
そんなことを考えていてもお構い無しに親父が僕を叩き起すために部屋に入ってきた。
さて、これからどうにかして親父を納得させて明日登山に行くのを辞めさせないと。